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Lee-Byung-hun addicted

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第7話

Recollection』 第7話

「あれ、ビョンホン君遅かったじゃない。」

不二子は晋作の顔色を窺いながらビョンホンに声をかけた。

「撮影が長引いちゃって・・・揺は・・・あ・・お客様ですか?」

晋作を見つけたビョンホンはそう言って彼に会釈をした。

晋作は彼の顔を見て唖然とした。

彼はもうすぐ結婚間近だと騒がれていた

あの映画のイ・ビョンホンだった。

「お前、一体どういうつもりなんだ。揺のこと・・遊びなのか。

だから芸能人ってやつは信用できないんだ。」

晋作はそういうとビョンホンにつかみ掛かった。

「不二子さん!この人誰ですか?」

捕まれ、彼の拳を避けながら必死に訊ねるビョンホンに

「えっ、揺の旦那さん。1週間前に結婚したらしいよ。」

不二子はまたチョコを口にしながら答えた。




「・・・・・」

「・・・・・」

「あら、つまんないね。薬箱用意しておいたのに。

もっと派手にやっていいんだよ。」

トメが笑いながら言った。

「しかし、あの子のどこがそんなにいいのかしらねぇ~。

おっぱい小さいのに。」

「そこが可愛いんです。」

ビョンホンと晋作はハモるように言った。

お互い顔を見合わせてむっとする二人。

「まあ、おっぱいはともかくとして

私の孫だからモテるのもわからなくはない。」

トメは目をつぶってそういった。

「・・・であんたたちは何しにココへ来たの?」

「僕は揺が幸せかどうか確かめに来ました。

もし幸せじゃなかったら僕が幸せにします。」

晋作ははっきりとそういった。

「だって。ビョンホン君は?

さっき晋さんと揺の成り行きは聞いたよね。

あんた何かいうことあるの?」

珍しく不二子が厳しい口調で言った。

日本でも彼の噂は相当話題になっていた。

「僕は・・・・弁解できません。

映画撮影のためとはいえ相手役の彼女にきちんと意思表示をしなかったのは

事実ですし、揺が来た時ものの弾みとはいえ

彼女と役以外で抱き合っていました。

事実をありのままに彼女に話すために僕はここに来ました。」

「お前、撮影の度にそんな擬似恋愛みたいなことしていて

揺と結婚して幸せにする自信あるのかよ。」

晋作が食って掛かるようにビョンホンに言った。

「正直・・・・ない。

僕が幸せなら幸せだと言ってくれた彼女の言葉を信じることしか

僕には出来ない。

僕は・・・・人生の半分しか揺にやれないと言った。

揺はそれでもいいって言ってくれたんだ。

映画と半分ずつなら幸せだって。

だから映画の撮影がないときは

僕は揺のためだけに生きると決めたんだ。だから迎えに来た。

すべてを話せば彼女ならわかってくれると、

付いてきてくれると信じている。」

「勝手な言い分だ」

「ああ、自分でもそう思う。

でも映画も揺も大事なんだからしようがない。」

「じゃあ、いっぺんに両方愛すればいいだろ。

世の中のほとんどの人は仕事しながら恋愛して結婚してるんだよ。

そんなどっちかしかできないなんて、不器用にもほどがある。」

「ああ。だから何度も迷った。

俺は彼女に世界中で一番幸せになってもらいたい。

だから俺が幸せにできないなら彼女を諦めようと何度も思った。

そのたびに彼女は言ってくれた。

幸せかどうかは自分が決めると。

ずっと幸せでなくても俺と生きられるだけで充分幸せだと。

だからもう俺は自分から手を離すのはやめたんだ。

もし、俺たちが別れるならば・・それは彼女が俺の手を離した時だ。」

ビョンホンはせつなそうにそう口にした。

「揺が言ってたことがよくわかったよ。

じゃ、後は揺の判断に任せよう。

もし、お前を選べばそれが周りからどんなに不幸に見えようとも

彼女は幸せなんだと思って俺は身をひくよ。

もし、彼女が手を離したら・・・

俺が世界中で一番幸せにしてやるから安心しろ。」

晋作はそうはっきりと言った。

「揺はいつまでボストンに?」

晋作が不二子に訊ねた。

「あと1週間くらいかしらね。」

「じゃあ、俺迎えに行ってきます。お前はどうする。」

そう聞かれてビョンホンは返す言葉が見つからなかった。

多くのスタッフが待っているのにすっぽかすわけにはいかなかった。

「仕事があるから・・・・ソウルに帰る」

ビョンホンはうつむいて唇をかんだ。

「忙しいと恋をする暇もなくて大変だね。まあ、俺に任せろよ。」

そういうと晋作はポンとビョンホンの肩を叩いた。

「じゃ、お邪魔しました。」

「あれ、もう行っちゃうの?」

「ええ、彼女きっと辛いでしょうから。早く行って支えてやらないと。」

晋作はそういうとビョンホンの顔色を窺った。

膝の上で両手の拳を握ったままビョンホンは

顔を上げずにじっと黙っていた。

全身から悔しさが滲み出していた。

行きたくても行けない。

思い切り抱きしめたいのにそれが出来ない辛さ・・

自由に彼女の元へ向かう真っ直ぐで一途な晋作の愛の前に

ビョンホンは手を離されるかもしれない寂しさに怯えていた。


晋作がボストンのローガン空港に降り立ったのは夜の10時を回っていた。

不二子から聞いていたホテルに電話をする。

「揺・・・」

「・・・晋さん」




「どうしてここまで来てくれたの?」

揺の滞在するホテルの一室。

「そんなこと当たり前だろ。お前が幸せかを確かめに来たんだよ。

不幸だったら俺が幸せにしなきゃいけないからな。」

晋作のその言葉を聞き

揺は切れんばかりにぴんと張っていた心の糸が

ぷっつりと音を立てて切れた気がした。

涙がとめどなく流れ出す。

立っていられなくて揺は部屋の真ん中にしゃがみこんだ。

そんな揺を晋作は抱き起こししっかりと抱きしめた。

「泣きたいだけ泣け。明日は元通りの顔になるように俺が看病してやるから」

そういって彼は揺の頭を優しくなでた。

いったいどのくらいそうしていたのだろう。

揺が落ち着くまで彼はずっと揺の髪をなでていた。

そしてベッドに腰掛けさせた。

「落ち着いた?」

優しく聞く晋作。

揺は何も言わずゆっくりと頷いた。

「ここへ来ていろいろ考えて答えは出た?」

「・・・・」

揺はうつむいて答えなかった。

そんな揺の肩をぎゅっと抱くと

彼はすっと立ち上がりカーテンを開け夜景を見ながら話し始めた。

「東京に向かう途中パリで映画を観たんだ。

『a bittersweet life』っていう韓国映画だった。

いい映画だった。

主役の俳優の眼と声が特に印象的で心に残る映画だった。

あんな綺麗な映画久しぶりだったよ。

あんな力のある目をした男をみるのも久しぶりだった。

そして俺はその俳優に東京のお前の家で偶然に会った。

撮影が終わってすぐ駆けつけてきたらしかった。

いろいろ話を聞いた。

正直でうそがつけなくて不器用な奴だった。

責任感が強くって仕事に対して誇りを持っている奴だった。

そして・・・・お前のことを本当に愛していた。

俺と同じくらい。

俺がここに来れてあいつがここに来られなかったのは

あいつが忙しくて俺が暇だという違いだけだ。

ボストンに行くという俺にあいつは何も言わなかった。

ただ悔しそうに拳を握り締めていた。

本当は自分が飛んで行って抱きしめたいのに・・・

違う男に好きな女を任せなければいけない辛さに

あいつはじっと耐えていた。

俺はアイツに言った。

揺がお前の手を離したら揺は俺が幸せにすると。

アイツは自分から揺の手を離すのはもうやめたと言っていた。

もし二人が別れるとすれば揺が手を離すときだって。

アイツ・・・思ったよりいい男じゃないか。

お前見る目あるよ。

悔しいけど本当は・・・お前の背中を突き飛ばしに来たんだ。」

晋作はそういうとニッと笑った。

揺は晋作の話を聞きながらまたボロボロ涙を流していた。

そして泣きながら

晋作が自分をビョンホンの元に返すために来たのだということを

ヒシヒシと感じていた。

「晋さん。。。ありがとう。私・・・幸せになるから。」

そういう揺の目に迷いはなかった。

「俺、やっぱかっこいいよなぁ~」

晋作はそういうと頭をぼりぼりとかいた。

その晩晋作は揺の目が腫れないように

一晩中濡れタオルを代えてくれていた。

揺が起きた時にはもう姿が見えなかった。

そしてドレッサーの前に置手紙があった。

「あの役者バカが長期に留守のときは遊んでやるから連絡しろ。

それから俺に可愛くて胸のデカイ嫁さんを世話しろとアイツに伝えておけ。

じゃ、幸せになれよ。
                                晋作」


「全く・・・」

揺は苦笑しながら彼にこころから感謝した。

結局彼には甘えっぱなしだった・・・最初から最後まで。

彼と結婚したらそれはそれで幸せだったかもしれない。

ふとそんな思いがよぎった。

でも・・・私が帰るところは・・・・やはり彼の元しかない。


「さあ、まずはきっちり仕事を片付けないと」

揺は元気よく部屋のカーテンを開けた。

燦燦と輝く朝日を眺めながら揺は思いっきり伸びをした。

ボストンから戻った揺は休む暇もなくソウルへ旅立った。

もう彼と別れを惜しんでから120日が経とうとしていた。







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